〔7基の画法〕3基 写実
3基 写実〈油彩画溶液の調合方法〉
画溶液 ツヤの美しさ
私の制作の歳月を振り返るとき、画溶液の調合の失敗と改善の歴史だったように思います。
私はかつては完全に「マット」な画面が好きでした。
アルキド樹脂メディウムを絵具に混ぜて厚塗りし、乾燥したらアルキド樹脂をテレピンで薄めた画溶液で薄塗りし、と速乾性のアルキド樹脂メディウム(ホルベイン ペインティングメディウムゼリー)を多用していました。
アルキドは乾燥が速いので、時間が経過したような風化したような感じを出すために、ヤスリをかけ、マットな風合いを出したりしていました。
マットな画面には、和紙の触り心地のような、なんとも言えない良さがあります。
最近の作品は「ツヤ」をつけて制作しています。
雨の日、錆びた壁は、表面の水のコーティングで、宝石のような美しさを出します。
普段見せない「あっ」と思うような別世界が、そこに現れます。
いつか見た、雨の日の壁のような画面。それが私にとって理想の画面です。
ツヤのある画面の作り方は、溶き油の調合にあります。
基本は次のとおりです。
まずはこの調合の仕方を頭に入れておいてください。
乾性油 1 (リンシードオイル、スタンドオイル、ポピーオイルなど)
樹脂 1 (ダンマル樹脂溶液)
揮発性油 2 (テレピン)
私の好きなリアリズムの作家2人の調合は、以下のように行なっています。
小木曽誠氏は
乾性油 1 (ポピーオイル)
樹脂 1 (ダンマル樹脂溶液)
揮発性油 2 (テレピン)
『美術の窓 技法講座45 小木曽誠』(生活の友社)
諏訪敦氏は
乾性油 1 (リンシードオイル)
樹脂 1 (ダンマル樹脂溶液)
揮発性油 2 (テレピン)
『美術の窓 技法講座27 諏訪敦』(生活の友社)
ただし、この調合はかなりツヤが強く、乾くのに1〜2週間はかかります。
じっくり長時間の制作時間をかけることができる場合には、この調合でも良いと思います。
画溶液 描く時は遅く 乾かす時は速く
逆に、画溶液は速く乾けば良いというものではありません。
速く乾くだけの画溶液では、リアル描画からは遠のいてしまいます。
早く乾き過ぎると、乾く前に行う色同士を画面上で混ぜ合わせ、自然なグラデーションを作る「ブレンディング」がうまくいかないからです。
描いているときは、ブレンディング(画面上で混色)が可能なように、遅くドロっとした感じが続くように。
一晩たったら、完全乾燥し、グレージング(液状の絵具を薄くかける)が可能なように。または耐水ペーパーで研磨することもできるように。
私はその理想を追い求めてきました。

上 原 一馬 油彩画溶液 調合方法
アルキド樹脂 1 (ホルベイン ペインティングメディウムゼリー)
フラマンシッカチフ 1 (ルフラン フレミッシュシッカチーフメディウム)
リンシードオイル 1
ダンマル溶液 3
テレピン 6
アルキド樹脂 ………………ジェル状で、乾燥後は半ツヤの樹脂層を作り、速乾の役割をする。
フラマンシッカチフ ………粘っとしていて、乾燥後はツヤのあるガラス層を作り、速乾の役割をする。
リンシードオイル …………ドロっとしていて、乾燥後はツヤのある樹脂層を作り、描画中の乾きを遅らせる役割を果たす。
ダンマル溶液 ………………すばやく乾き分厚いガラス層を作る。これだけでは再融解してしまうので、上の3つのどれかを入れる必要がある。
テレピン ……………………上記を薄める役割をする。
ツヤを抑えたい時は、アルキド樹脂1.5 : フラマンシッカチフ0.5の割合に変えたりします。
描画、グレージングもこれ一本で行います。
この調合に変えてからは、「描きにくい」「仕上がりが何か違う」 そんなストレスから今ようやく解放されたように感じました。
おそらく過去の作家たちも、こうして描きやすい自分なりの調合に行き着いてきたのだと思います。
画溶液 とにかく速く乾かしたいなら
一方、皆さんの中には、「とにかく速く乾かして、どんどん制作を進めたい」というかたもいると思います。
そのようなかたにおすすめしたいは、かつての私が使っていた画溶液の調合方法です。
速乾 油彩画溶液 調合方法
アルキド樹脂 2 (ホルベイン ペインティングメディウムゼリー)
フラマンシッカチフ 1 (ルフラン フレミッシュシッカチーフメディウム)
テレピン 7
という調合です。
一晩で乾燥し、次の日には同じ画溶液でグレージングもできます。
厚塗りの絵具も「できれば一晩で乾かしたい!」というかたは、
油絵具 2:1 アルキド樹脂(ホルベイン ペインティングメディウムゼリー)
で絵具自体にアルキド樹脂を練り込んでしまうことをおすすめします。
「速乾」というと、揮発性の「シッカチフ」を画溶液に入れるかたも多いのですが、この方法はおすすめしません。
なぜなら数年後、画面にヒビが入り、長期間の保存ができないからです。
何十年も前に、シッカチフで描かれた作品が展示されているところを見ますが、今、見るも無惨な状態になっています。
今シッカチフを使用して描いている人は、あなたの作品をずっと残していくためにも、このアルキドを使用した方法に変えてもらいたいと思います。
画溶液 ツヤのコントロール法
制作を進めていくと、もう一つ問題となってくるのは、画面のツヤのコントロールです。
ツヤの調整がうまくいかず、何週間も調合を変えたニスを何度も塗り重ねた苦い経験が私にはあります。
この作品は受賞作となりましたが、展覧会場にいってもその作品のツヤが気に入らず、受賞の喜びよりツヤの具合いが気になって過ごしていました。展覧会終了後、作品が帰った直後にまた何回も塗り直しました。
学生時代に画溶液の研究を行なっていた友人・知人たちに電話をかけまくり、解決策を見出そうとしました。
「テレピンを浸した布で拭き、一回ツヤなしにしてから、またツヤを出していくといいですよ」という有益な情報もありましたが、明確な答えをくれる人はいませんでした。
ツヤを出すためには、ツヤありの画溶液を塗り重ねていてば良いのですが、逆にツヤなしにすることは難しいことです。
私が試行錯誤のあげく、ツヤ無しにするために、
たどり着いた方法は、 マット質なアルキド樹脂を使うことです。
次の調合ニスを乾燥後に塗って調整する方法です。
〈 油彩マットニス 〉
ストロングメディウム………………1 (ホルベイン)
テレピン………………………………3
〈 油彩ややつや出しニス 〉
ペインティングメディウムゼリー…1 (ホルベイン)
テレピン………………………………3
つやなしのストロングメディウムか、
つやありの ペインティングメディウムゼリーか、
この割合を調整することで、油彩画のつやは完全にコントロールすることができます。
とにかく速く乾かしたい、グレージング(厚塗りの上に、透明色の薄塗り)を多用したい、せっかち派の人は、上の調合で画溶液としても全部いけます。