〔7基の画法〕5基 発想
5基 発想
発想力は才能ではない
発想というと、自分には発想力がない、と思ってしますうかも知れません。選ばれた人にだけ備わった芸術の神の力のような。
しかし、そんなことはありません。誰でも発想力は身につきます。発想力がないと思っている人はその方法を知らないだけです。
では、発想の方法とは、どのようなものなのでしょうか
10個の言葉で書き出す
上原一馬「夜の探求者」
作品の発想の際は、まず作品のテーマを決めます。
例えば、「夜の探求者」という作品では、
帽子を被っている人物写真から、「探求者」というテーマが思い浮かびました。
「テーマ」から連想する言葉を、10個書き出しました。
「探偵」「コート」「夜」「月」「カメラ」「双眼鏡」「方位磁石」「ダーツ」「警察犬」「アンティークカー」というような言葉が浮かび、紙に書き出しました。
この時点で、一つの画面上にあったら不自然なものは、はじいていきます。
なんとなく絵が想像できたら、資料探しに移ります。
こうして探した資料を元に描いていくことで、ブレのない一貫したテーマで作品を作り上げることができます。
小説の表紙を数多く手がけてきたことで有名な、イラストレーターの松尾たいこさんがNHK「トップランナー」に出演した時、オファーを受けて作品を制作する場面が出てきます。
ここではやはり、この言葉を書き出し、そのあと資料を探す、という手順で制作を進めていました。
私がなぜ言葉を書き出す方法をとっているかというと、
一つ目は、発想を広げるためです。いつも同じ絵にならないように、今までになかったものへと発想を広げるためです。
二つ目は、手ぐせに引っ張られないようにするためです。いきなり鉛筆や筆で描き始めてしまうと、手ぐせに引っ張られて同じものになってしまいます。もっと広がりがあるものにしたいためです。
三つ目は、作品に深さを出すためです。いかなり資料探しから始めてしまうと、表面的にその資料に頼る形になってしまいます。形だけではなく、その奥にあるものを描くことの方を優先したいからです。
しかし、このたくさん言葉で書き出す方法を取ると、単なるたくさんの物の組み合わせ絵画になってしまう危険性もあります。
描いているものの数ではなく、その奥に深いテーマがあることも重要です。
名画と呼ばれる作品は、限定された要素で成り立っていることも多いです。書き出した後にしぼっていくことも重要です。
シミから発想する
上原一馬「想見のターティア」
私の初期の「ターティア」シリーズは、この「シミから発想する」方法で発想していました。
画面全体に拡大コピーをコラージュするように転写し、パネルを平置きニスを全体に流します。
制作の最初の段階では構図は決まっていません。
画面が乾燥したら、パネルを立て、遠くからボーッと眺めます。
すると、画面のシミからいろいろなものが見えてきます。
人の影に見えたり、動物に見えたり、時には恐ろしい悪魔が見えたりします。
その形を描き起こしていくのです。
この方法を使うと、自分でも思いもしなかった発想や構図で描くことができます。
発想の源泉を偶然に委ねているため、発想が尽きることがありません。
マンネリ化しない、いつもあり得ないような発想が、次から次へ生まれてきます。
私の国展の受賞作「想見のターティア」も、この方法を使い描いた作品です。
この方法は、国展の作家である佐々木豊先生、開光市先生から伝授していただいたものです。
佐々木豊先生は、余った絵具をもう一枚のキャンバスに塗りたくり、その形から発想しています。
開光市先生は、絵具を引きずるように塗りたくったり、流したりして、その形から発想しています。
絵を「発酵させる」と、眺めている画面から自然と発想が向こうからやってくる。
「運ばれてくる発想」というような言葉をお二人は使用していますが、絵の方から形が浮かび上がってくる、そのことを形容しているのだと思います。
一流作家の作品を見ると、その形に目がいってしまいますが、もっと大元の「原点」に注目することの方が大切だと感じています。
何より感動を大切に
石田徹也「コンビニエンスストアの母子像」
発想の方法の例を紹介してきましたが、最も大切なことを言うと「感動を大切に」ということに尽きます。
それは考えてみると当たり前のことなのですが、自分でも感動がないようなものを作り、作品を見る人に感動してくれ、というのも都合のいい話ではありませんか?
少なくとも自分だけは心揺り動かされた何かが、作品の中になければなりません。
くり返しの惰性で描いている人は、失敗してもいいので、感動を作品の中に取り入れた新しい作品づくりにチャレンジすべきです。
自分のスタイルというマンネリに落ちいってしまっている人は、感動を優先した方が見た人の心を動かす作品ができます。
「そんな感動なんか自分の日常の中にないよ」という人もいます。
しかし、どうしようもない低いレベルの日常の中にこそ、ヒントが隠されている場合があります。
こう考えてはどうでしょうか。「自分と同じような日常を送る人は、もしかすると世の中に数多くいて、その人たちを救うような作品が作れるのではないか。」
芸術作品の感動とはつまり、無意識レベルでの共感です。
多数存在する自分と同じ境遇の人が救われるような、日常の中のわずかな光を描いてみてはどうでしょう。
または、闇そのものを描き、「苦しいのは自分だけじゃないんだ」という共感でつながることもできるはずです。
若くして亡くなった石田徹也さんの絵は、自身の日常を切実に描いているからこそ、今も多くの共感を得ているのです。
いずれにせよ、日常の中で自分が感じていることは、多くの人の苦しみと喜びでもあるのだという信念を持つことが大切なことです。
5基 発想 の実例
具体例1
ここでは、実例を紹介します。
具体例2
ここでは、実例を紹介します。
具体例3
ここでは、実例を紹介します。
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