〔7基の画法〕最後に

最後に

画法を超えて

 
ここまで絵画の技術的な部分にフォーカスし、絵画において特に重要な7つの技法を「7基の画法」として分類し述べてきました。
しかし、技術についていくら語ろうしても、言語では語り切ることのできない大切なことが、芸術の世界にはあります。

それは、皆さんが「あの曲聞きたいな」とか「あの映画観たいな」とか、「あの絵に会いに行きたいな」と思う、その心の動きの中にあります。
感動的な小説を読んで、自分でもオリジナリルの物語を書いてみたい。感動的な曲を聞いて、自分でも演奏してみたい、あんな曲を作ってみたい。すごい絵を見て、自分でもあんな絵を描いてみたい。
そう思った心の動きの中にあります。

このことに気づくことは、技術を超えて、多くの人を心を動かす作品を生み出すことにつながります。
皆さんの作品づくりを、それが利益になるならないに関わらず、継続させていくモチベーションになります。
 

一番大切なこと

 
サン=テグジュペリの書いた児童文学『星の王子さま』の中に、その核心を表すような一節がありますので、紹介したいと思います。

大人になった主人公は、シルクハットのようなある「帽子のような絵」を持ち歩いています。
その帽子ようなの絵は、主人公が子どもの頃に、原始林であるというヘビがゾウを飲み込む話を読んで、「これはすごい!」とワクワクしながら描いたものでした。
当時、大人にその話をしても伝わらず、そんな帽子の絵を描いているヒマがあったら勉強しなさい、と言われてしまったそうです。
それから、主人公は勉強に精を出して、飛行機の操縦士になります。
それでも気持ちは変わらず、ものの分かりそうな人に出会ったとき、その帽子の絵の話をしたのだそうです。
しかし、帽子の絵のことが分かる人には出会うことはなく、ゴルフや政治の話をすると、もの分かりの良い人だと思われたのだそうです。
 
登場人物には主人公のほか、星々を旅する王子さまが出てきます。
その王子さまが立ち寄った星には、現代を生きる人々を端的に投影したような一風変わった人物が出てきます。
小さな星で一人で威張っている王様。
賞賛だけを求める自惚屋。
酒を飲み過ぎている恥を忘れるために酒を飲む酒飲み。
星の所有を主張しその膨大な数を数えることに日々を費やす実業家。
一分で一日が巡る星で街灯をつけたり消したりひたすら仕事する点灯夫。
自分の机を離れたこともない地理学者。
 
そして王子様は、7番目の星 地球へとたどり着き、主人公と王子様はあることに気づきます。
「どんなものでも、その美しいところは、目にみえないのさ。」
「いま、こうして目の前に見えているのは、人間の外側だけだ。一番大切なものは、目に見えないんだ。」
「ともし火は、大切にしましょう。風がさっと吹いてきたら、その灯が消えてしまうかもしれませんから。」
 
「一番大切なものは、目に見えない。」
この言葉こそ、作品制作の本質であるように思えます。
言葉では伝えきれないことを、人は音楽に託したり、絵に表したりします。
心の中に「大切なもの」を持っているのにも関わらず、しまい込んだまま終えてしまう人。表現したくてもできない人。
 
「大切なもの」が、そのまま何もなかったように、空気のように消えてなくなってしまわないように、私の画法を書き残そうと思いました。

じつをいうとあまり人には教えたくないような、長年苦労して培ってきた極意も含まれています。
それを語ってしまうということは、自分の作品の作りをばらしてしまうことになります。それは、試合の前に自分の得意技をすべてばらしてしまうようなものです。
しかし、私の感覚が鮮明なうちに、やがて衰え命がなくなってしまう前に、多くの人に伝え残しておくべきだと思いました。
 
あなたの中の「大切なもの」を失わないでほしい。
風が吹こうとも、そのともし火は決して絶やさないでほしい。

私の「7基の画法」が、あなたをほんとうの自由な場所へと向かうための、翼のようなツールとなっていくことを、心から願って止みません。