〔7基の画法〕7基 質感

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7基 絵肌

絵肌はなぜ重要なのか

 
「絵肌」、「マチエール」ともいいますが、絵を描き始めて間もない皆さんには、ピンと来ない話でしょう。
 
私が国展で作家たちと話をする時、このことに関する話が実に多いです。
作品の内容のことがらより、作家たちの間での会話は「マチエール」に関する話が多いのです。
そのくらい、作家たちにとって「絵肌」は重要なことなのです。
 
一般の鑑賞者がほとんど意識しないのに、なぜ「絵肌」は重要なのでしょうか。
 
それは、人を見た時の印象と似ています。
きっと皆さんも人を見た時、「あっ、きれい」と思った時、目鼻立ちがきれい、と同じレベルで肌がきれいかどうか判断しているはずです。
どんなにきれいな目鼻立ちをしていても、吹き出物だらけの人の評価は低いはずです。
逆に、肌がきれいなだけで印象もいいということがあります。
 
絵画作品も、全くいっしょなのです。

ツヤかマットか

 
でも、絵画を見て見ると、ツヤツヤの絵もあれば、逆に日本画のようなザラついたマットな絵肌もあります。
結局、どっちでもいいんじゃない?
と思う人もいるでしょう。
 
いろいろな質感があるからどうでもいい、ということではありません。
どのような質感で行くにせよ、絵肌にはこだわりを持って制作すべきです。
 
ツヤがなぜいいかというと、
例えば、木でできた製品を皆さんが購入しようとするとします。
多分、白木のものより、美しいニス塗りの製品を選ぶと思います。
白木のものより高級感があり、貴重性が高いと認識するからです。
 
車を購入する時もそうでしょう。
ツヤの薄れた製品は、古びた印象を受けます。
逆にピカピカにラッカーを吹き付けた車は、それだけで新品で高級な印象を受けます。
 
人間は、全く逆に、マットなものを好む傾向もあります。
 
和紙などの製品が売れるのは、そのためです。
ざらっとしたマットな質感は、肌に触れた時、心地よさを覚えます。
 
直接肌に触れる、布団やクッションは、そういうマットな質感の良さで選んでいることでしょう。
 
ツヤも好き。マットも好き。
どちらも人間が本能的に求めるものなのです。
 
あなたは、どちらで行ってもいい。
どちらかで、画面に何も描いていなくてもなんか好き、と思わせる質感が出せたらそれだけで、好まれる作品を作り上げることができます。

骨董の魅力

 

人は、なぜ骨董に惹かれるのでしょうか?

古いものよりも、新しいものがいいはずなのに。
著名な陶芸家、漆工芸作家が作ったものだからでしょ、そんな答えが返ってきそうです。

しかし、その前にこれいいな、と思っているはずです。
その上で、確かな作家の作品の作品だということを知り「私の目に狂いはなかった!」と思い、購入を決めているのでは。

時間を経た作品は、新品にはない味があります。しかも、こんなに時間が経っているのに美しいのだから、これからもどんどん味が増していくのだろうと想像するのです。

その風合いは、プラスチックのような人工物では出すのが難しく、木や綿布の自然素材で作られたものの方が出てきます。
自然素材ならではの経年の風合いは、新品には出せないようなたまらない貴重感があります。

風化の美学

 

©️小林伸一郎
 
私は風化したものが好きです。学生の頃は、町で錆びた壁や、薄汚れた壁を見つける度、カメラに納めていたものです。

「廃墟遊戯」で有名な小林伸一郎さんの写真集は、何冊も購入し、今でも大好きな写真集です。

風化したものに、人々は魅力を感じ、私もまたなぜ魅力を感じていたのでしょうか。
それは、人工物はやはり人の手によって作られたものであり、不自然なものだからです。

それが、雨風や腐食の自然作用によって風化していきます。それは、自然の一部に戻ろうとする過程であるとも言えます。

人間も自然の一部であるがゆえ、自然を感じるとき、その一部となった心地よさを感じているのだと私は考えています。
作品の中の絵肌の中に自然を感じる時、人は、自分と作品と自然とが一体となったような感覚を本能的に感じているのだと思います。

風化の作法

 
ここでは、私 上原一馬の「風化の作法」をお見せしていきます。
自然の風化の過程を人工的に行っていく、というのが基本的な考え方です。
 
 

 

 
①ジェッソ コテ塗り
ジェッソをコテで壁塗りするように塗っていきます。
この時の凹凸が最後まで残るので、うまくコントロールしていい凹凸になるように塗っていきます。
 
 
 

 

 
②アクリル 薄塗り
一晩経ちジェッソが乾いたら、アクリル絵具を水で薄めて、刷毛で薄く塗っていきます。
 
 

 

 
③やすり 研ぎ出し
一晩経ち乾いたら、耐水ペーパー(#400くらい)で研ぎ出していきます。
水をつけて研ぎ出していきますが、研ぎ汁はすぐに雑巾でふきとります。
凸部だけが削れることで、壁のような質感ができあがります。
 
 

上原一馬「東京レトロメモリー」
 
④完成作品
壁のような古びた重厚感のある絵肌に仕上がっています。
もし背景が一色の平塗りだったらどうでしょう。何か物足りなさを感じることでしょう。
壁塗りの絵肌を作ることで、何もない部分を成り立たせていることが、お分かりいただけると思います。

7基 絵肌 の実例

具体例1

ここでは、実例を紹介します。

 

具体例2

ここでは、実例を紹介します。

 

具体例3

ここでは、実例を紹介します。

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