〔7基の画法〕3基 写実

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3基 写実

写実とは

 
「写実的に描く」というと、「ヘタです無理です」という答えが返って来そうです。
実際、私の講座でも「今日から写実絵画をやります」というと、「えー、無理ー」とざわつきます。
しかし、実際制作をしてもらうと、作品を展示した時、笑われてしまうような超ヘタな人は、まずいません。
つまり、写実にも方法があるということです。
 
少しだけ「写実」という言葉についてお話しします。
私は分かりやすく、かっこいいので「写実」という言葉を使っていますが、現在の日本美術界は、「写実絵画」が全盛ですので、「写実とは物をただ写すだけではない、本質的なことを何も理解していない」と反論されそうです。
絵画を専門にしている人はご存知かと思いますが、日本には野田弘志、磯江毅、諏訪敦といった、著名な「写実絵画」の先駆者の先生方がいます。「写実絵画」や「リアリズム」を志している人は、表面的なものだけでなく「物の本質を描く」ということを意図していることでしょう。
 
そこまで語り出すと、いきなりハードルが高くなりすぎてしまうので、私が使う「写実」という言葉は、単にものをそっくりに「写実的に描く」ということを指しています。
もちろん、最終的に「写実絵画」の領域に到達したりする人が出てきたら、うれしいことです。

形をとるには

 
私の講座では、写真を白黒拡大コピーし、裏を鉛筆で黒くし、いわゆる「鉛筆カーボン紙」をイラストボードの上にとめ、上からなぞってトレースします。
「こうやって写してもいいよ」と言うと、「それならできそう!」と、皆ほっとした表情をします。
形を正確に描くことができない、というコンプレックスがあるのでしょう。
 
最終的には、この「鉛筆カーボン法」は卒業していきますが、最初から挫折を味わうくらいなら、この方法でやってみることをおすすめします。
 
「鉛筆カーボン」の他にも、「プロジェクタ」で投影して写す方法もあります。様々な機器が発達した現代ですので、使うことは全然あり、だと思っています。
写実の大作家フェルメールも、当時最先端の投影機を使っていたのでは?という説もあります。

形はシルエットでとらえる

 
では、自分の目で、形を正確にとらえるにはどうしたらいいのでしょう。
それは、「シルエットでとらえる」ということです。
ちょっと、意味が分からないですよね。
「ものが真っ黒だと想像して、その形を描く」と言えば伝わりますでしょうか。
 
初心者の方は、どうも外線を追いかけてしまい、形がずれていってしまうようです。
そうではなく、意識を変えます。
目の前にあるものを「真っ黒な物体」ととらえ、その「真っ黒なシルエットの形」と同じ形になるように自分の画面にも描くのです。
 
真っ黒な形を想像したら、パッと自分の描いている画面にその形を投影します。
どうです?今描いているものは、見ているものとは違うシルエットになってしまっているでしょう。
見ているものを「真っ黒」、描いているものも「真っ黒」と想像し、パッ、パッっと視線を交互に動かしながら、描いてみてください。
きっと、形が正確に描けるようになってくるでしょう。
 
この意識の変え方で、飛躍的に形をとる力は向上します。
 
全体をシルエットで見たり、部分をシルエットで見たり、そのように全体と部分の形をシルエットで合わせていくと、完全に正確に形がとれるようになってきます。

背景はグラデーションで描く

 
描き始めは、背景からです。
前の物から描いてしまうと、背景との境目が不自然になってしまうからです。
例えば、自分物の髪の毛を描いてから、その背景を描くって至難の技ですよね。
 
背景を描く時のポイントは、「グラデーションで描く」ということです。
特に風景で空などを描く時などは、グラデーションを使います。
空ではない場合にも、背景はぼんやりと描いた方が、「向こう」の感じだでますので、「グラデーションで描く」ということは有効な方法です。
 
私の講座では、初心者向けに、アクリルとポスターカラーを使った「写実絵画」を制作してもらっています。
「背景はポスターカラー」と指導しています。
なぜなら、ポスターカラーは乾いてからも水に溶けるため、グラデーションがやりやすいからです。アクリルだとそうはいきません。
 
幅の広い刷毛で、画面の端から端まで、なるべく筆のストロークを大きくして、塗っていきます。
乾かないうちに次の色に移ります。
さっきの色との境目は、乾かないうちに混ぜ合わせます。
つまり乾かないうちに「ウェット・イン・ウェット」でグラデーションを作るのです。
 
前の物に少しかかるくらいで。
きれいな空のグラデーションができると、皆それだけでテンションが上がります。
筆の動きがいまいち伝わらない場合には、「となりのトトロ」などの背景画を描いた、男鹿和雄先生の制作DVDを見てもらい、同じように私がやって見せます。
たったそれだけの筆さばきなのですが、「おー!先生プロじゃん!」と言って皆喜んでくれます。
 
油彩の場合には、ペインティングオイルを多めに溶き、やはり乾かないうちに境界を混ぜ合わせる、という方法でグラデーションを作ります。

写実は 薄→厚 暗から明へ

 
「写実は 薄→厚(うすあつ)暗から明へ」
私が講座の中で、繰り返し使う言葉です。
 
手前の物、風景だったら手前の木々や建物、動物や人物。
主役となるものを描く際は、この方法で描きます。
 
どういうことかというと、筆で塗り描く際、暗い色から薄く描き始め、徐々に明るい方に向かって厚みを出しながら描き進めるということです。
 
講座では、扱いやすいアクリル絵具を使用していますが、油彩でも同じです。
 
暗部は、水彩のように薄く水の量が多い溶き方なのですが、明部の描画では水の量は少なくなり厚く盛り上げるようにします。
特に一番明るい部分の形のキワは重要で、そこをしっかりと決めると、急にそれらしく見えるようになります。その一番明るい部分は、絵具が盛り上げる部分です。
 
水彩を主に学んできた高校生は、暗部に色を重ねる、という塗り方しかできません。
この逆をやっていくのです。
 
言葉で語るより、手本で一回やってみせると、どんどん描いていきます。

3色でとらえる

 
写実的に塗り描く際は、物を3色でとらえます。
もちろん、実物にはそれ以上の色が存在するのですが、あまりに多くの色を扱おうとすると、混乱してしまいます。
植物なら、葉っぱなら葉っぱで3色、花は花で3色。
人物なら、肌は肌で3色、髪は髪で3色でとらえます。
その暗い色から塗り始めるのです。
 
この3色のとらえ方は「2基:色面分割」で学んだことに通じています。
しかし、「色面分割」を学んだ生徒は、「色をきっちり混ぜなければ」と思ってしまい、3色の色を大量に作ろうとします。
 
写実の場合は、絵具セットで言うところの溝の深い「丸穴パレット」の方ではなく、四角い格子状の「四角パレット」の方を使います。
上の方に使いそうな絵具を全部出しておいて、下の広い部分で混ぜ合わせます。
 
混ぜ合わせてできる絵具の量は、500円玉くらいで大丈夫です。
次の色は、前の色に少しかかるくらいに混ぜて作ります。
パレットには、暗い色から明るい色へのグラデーションができていくことになります。

明暗をチェックしながら進める

 
写実的に描く場合は、写真資料を横に置き、明暗をチェックしながら進めます。
その時、まずカラー資料の方を目を細めて見ます。
そのまま、パッと描いている方に視線を移します。
どうですか?資料と描いているところ、明暗はいっしょになってますか?
なんか変だなという場合には、明暗が合っていませんので、そろえる必要があります。
 
なんか変だなという場合、実は、色が違うので変に見えるのではなく、「明るさが違う」ので変に見えるのです。
「色は違ってもいいので、明るさはそろえよう」と私は言っています。
 
この物のとらえ方は「色面分割」と良く似ていることが、何となくお分かりいただるでしょうか。
「色面分割」では境目はパキッと塗っていましたが、写実の場合には、かすれやぼかしを使ってだんだん変化させます。
急に明るくなるところは急に変化させ、だんだん明るくなるところはだんだん変化させます。
その「急」か「だんだん」かも、目を細めてそろえることで、写実的描画となるのです。
 
慣れてくると、ちょっと描いたら、目を細めて明暗チェックするクセがついてきます。
このように、明暗チェックを体得すると、自分で自分の絵のおかしい部分を客観的にジャッジすることができるようになり、「うまくいかない!うー(モヤモヤ)」ということはなくなります。

鉛筆デッサンでも

 
「3基 写実」で述べてきた画法は、油彩、水彩などでも応用することができます。
「形はシルエットでとらえる」「目をほそめて明暗をそろえる」写実的に描きたい場合の、どんな場面でも基本となる画法です。
 
特に鉛筆デッサンをやろうとしている人には、ぜひ身につけてほしい物の見方です。
 
静物や石膏像の形は「シルエット」でとらえる。描いているものが同じ真っ黒な形になっているか。
鉛筆で陰影をつけてを描く場合にも、モチーフとなる物と、自分の描いているものの明暗を、目を細めて見て合わせる。
 
この方法をマスターしさえすれば、最初に「え」っていうくらいヘタだった生徒も、すぐに「お前うまいな」と友人にびっくりされるくらいになります。
あとは枚数を重ねていくだけで、みるみる上達していきます。

身につけておくべき遠近法は

 

ここからは少し応用的な手法の話になります。
必ず身につけておく必要はありませんが、知っているだけでもかなり表現の幅が広がるので、ぜひ一読してください。
 
遠近法についてです。
遠近法と言えば、「線遠近法」が思い浮かぶ人が多いと思います。
見えている線を延長していくと、目線の高さの消失点に向かう、遠近法の原理です。
 
他にも様々な遠近法があり、一つ一つ書いていくと膨大な量になりますし、詳しいことは専門書も出ていますので、割愛したいと思います。
 
遠近法は、絵によって使うものもあれば使わないものもあります。
自分が制作してきた上で、どんな絵を描く時も知っておいた方が良い、という遠近法にしぼって話したいと思います。
 
遠近法には、さまざま種類がありますが、写実的に描く時に、特に身につけておくべき遠近法は、空気遠近法の2つです。

コントラスト 手前は強く 奥は弱く

 
「コントラスト」の意味ですが、ご存知でしょうか。
日本語にすると「明暗の差」のことです。一番明るい部分と、一番暗い部分の明暗(明度)の差がどのくらいあるかということです。

「明度の差を大きく」=「コントラストを強く」描くと、物は手前に出てくるように見えます。逆に、
「明度の差を小さく」=「コントラストを弱く」描くと、物は奥に引っ込んで見えます。

窓から風景を見てみてください。
遠くの山やビルはどう見えるでしょうか。全体的に青みがかったグレーに近い色で、コントラストが弱いことが分かると思います。
こうして一枚の絵の中でも、コントラストの強い、弱いを使い遠近を表現していきます。
 
諏訪敦 技法

『美術の窓 技法講座27 諏訪敦』(生活の友社)より抜粋

写実絵画の作家 諏訪敦さんが、人物画を描く技法紹介の中で、制作途中に背景を中心に平刷毛で白い絵具を薄くかける場面があります。
私は最初「え?何でそんなことするの?出来上がってきたところなのに」と疑問を持ちましたが、
いったん白をかけることでコントラストを弱め、奥に引っ込めてから、また手前を描き込んでいくことで、奥行き感がより出るということが後で分かりました。
 
私も、手前に出過ぎているなと感じる物は、薄く白をかけて奥に引っ込ませたりしています。

輪郭 手前ははっきり 奥はぼんやり

 
輪郭をはっきり描くか、ぼんやり描くか、によっても遠近は表現できます。

輪郭をはっきり描くというのは、切り絵のカッターで切ったような輪郭のことを言います。
輪郭をぼんやり描くというのは、かすれたような、ぼかしたような輪郭のことを言います。

例えば鉛筆で描くとき、奥の輪郭は鉛筆を寝かせて描き、手前の輪郭は鉛筆を立てて描くだけで、遠近が表現できます。
 
さて、ここでは「空気遠近法」の「コントラスト」と「輪郭」について述べてきましたが、この二つを身につけておくだけで、絵の遠近をだいぶ自然にコントロールできるようになってくると思います。
 
専門の美術教育を受けてこなかった人も、この二つの遠近法だけはマスターしていってほしいと思います。

3基 写実 の実例

背景の描き方

動画で、ポスターカラーを使った空背景の描き方を、実演しています。

 

主役の描き方

動画で、アクリル絵具を使った主役の花の描き方を、実演しています。

 

油彩描画の基本

動画で、油彩で立体的に描く方法を、実演しています。

画溶液の調合方法

写実的に描くための油彩画溶液の調合方法を紹介しています。

 

具体例5

ここでは、実例を紹介します。

 

具体例6

ここでは、実例を紹介します。

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